頭の中の世界の一部分の物語、思想、感性、感情、感覚、痛み、喜び。 書くことが、生きることの証明 詩、歌詞、エッセイ、小説、短歌、論述、コラム、考察。

芍薬が枯れないように

日和見、作詞、詩、社会心理、精神。

季節外れの、春一番

 

※かなり昔に書いた読み物の保存用ログ

※参考書籍あり

 

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春一番の青年に出くわして】

 

春来けり。

風やや強し。

花うつくし。

日当たり良し。

騒ぎなし。

 

「…ふぅ」

 

餅 美味し。

 

「ふぅ、じゃない」

「…何をしにきた」

 

…前言撤回。

 

「そんなもの食ってばかりだから自分まで餅みたいな体型になるんだ」

 

騒ぎ、到来。

 

「ていうかお前のそんな小さな体のどこに入るんだ?」

「強くなりたければお主ももっと食え」

「胃袋を強くしても意味が無い」

 

なんだってこいつはこんなにもしつこくつきまとう。

見たくも無い相手を追い回す。

せっかくのんびりと春の気色を堪能していたというのになんのつもりだろうか。

 

「私に何を求めている?」

 

答えなぞ分かりきってはいるけれど。

 

「…何って」

 

言葉で言い表せるほどのものでもなく

それだけの語彙力を求めているのでもなく

納得するような答えを求めているのでもなく

 

「力か、寿命か、権威か、優越感か、はたまた快楽か」

 

それでも問わずにいられないのは、

 

「…」

 

確かめないと息ができないから。

 

「それとも私そのものか」

「まぁ、強いて言うなら、そうかな」

「ほう」

「多くを望むのはもうやめたんだ」

「…矛盾している」

「どうとでも言え」

 

あきらめ切れない瞳で、

開き直ったような台詞を吐く。

矛盾とはそのことを言ったのだが、まさか気づくまい。

 

「いつか滅びるぞ」

「一度死んだからもう平気だ」

「食われるぞ?」

「お前もしつこいな」

「お主に言われたくない」

「五月蝿い餅でも食ってろ」

「妨害したのはどこの誰だ」

「何を!?」

「何だ」

「…なあ、」

「ん?」

「半分もらっていいか」

 

こいつ、嘘がうまいのか下手なのか、いや下手なのだろう。

無表情のまま手渡してやると、微笑してそれを受け取った。

甘味は好きではないといっていた気がするが、その辺は放っておこう。

 

「……ここ、よく来てるな」

 

しばらくの沈黙後、ぽそりと話しかけられる。

 

「散り桜がよく見えるからな」

「花より団子なのに?」

「あくまでそこにこだわるか」

「第一、花が見えているのか?」

「どこまで私を馬鹿にする気だ?」

「すまん」

 

謝るくらいなら初めから茶化さねばいいものを。

真っ直ぐなのか捻くれているのか分からない。

噛みあわない会話は桜の木に烏が停まっているくらい気持ちが悪い。

だが、これはこれで不思議な価値があろう。

 

鶯のように品が無くとも、雀のように愛嬌が無くとも、烏には烏の良さが在る。

 

「散らない花は美しいと思うか?」

 

気高く生きられない鳥たちは、地上の廃棄物を求めながら生きていくしかない。

 

「お前はどう思う」

「質問したのはこっちだぞ」

「いいから、さ」

「…不老不死を素晴らしいものとは思えぬ」

「まあな」

 

気高くなりすぎた生き物たちは、届く事ない宇宙を目掛けて羽ばたき続けるしかない。

 

「残酷なだけだ」

「それでも、美しいと思う」

「何故」

「だってそれは花だから」

 

「ふっ」

こいつならそういうと思った。

 

「笑うな、真面目に答えたのに」

はっはっはと声高に笑い飛ばしてやると、眉を吊り上げて憤慨する。

「いや、予想通りの答えだったので」

「お前の方がよっぽど人を馬鹿にしている」

「実際馬鹿ではないか」

「何だと?」

 

美しい。

だってそれはそれだから。

 

「甘ったるい考え方だな」

 

誰に証明できるというのだろう。

どうして言い切れるというのだろう。

 

それでも、それだから。

 

「まあ、甘ったるい方が私は好みだ」

「…そうですかい」

「お主はどうだ?」

「…嫌いじゃない」

「そうか」

「ちょっと前まで好きじゃなかったんだけどな、何でだろう」

 

どれだけ過ぎゆけども、それはそれだから。

 

「…互いにな」

「ん?」

「いや、帰るか」

「ああ」

「土産に餅五つ買ってからな」

「…仰せのとおりに」

 

 

春来けり。

風やや強し。

花うつくし。

日当たり良し。

騒ぎありき。

 

 

花桜 ほのかに見える青き葉に

重ね合わすは妹の瞳か